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女性ホルモン・エストロゲンの減少による症状で困っている方たちに、エストロゲンを補充する治療法です。
子宮のない方にはエストロゲンだけ、子宮のある方にはエストロゲンに加えて黄体ホルモンという女性ホルモンも使用します。
黄体ホルモンの併用は、子宮体がんを防ぐことが目的です。
HRT製剤には、飲み薬・貼り薬・塗り薬の3種類があります。基本的には自分で選べますが、血栓症などのリスクのある方には皮膚から吸収される薬が適しています。
補充するホルモン | 対象 |
エストロゲンのみ | 子宮のない方 |
エストロゲン+黄体ホルモン | 子宮のある方 |
薬種 | 利点 |
飲み薬 | 貼り薬と違い、肌がかぶれる心配がありません。 |
貼り薬 塗り薬 |
皮膚から吸収されるので、胃腸や肝臓への負担が少ない。 |
HRTは、海外の方がより普及しており、患者さんの認識が日本とは少し違います。海外では患者さんが自ら判断して受けるか決めますが、日本人はなかなか自分で決めることが得意ではないようです。普及率が違うので仕方がないですが、メディアの情報に影響を受けやすい。きちんとしたHRTの情報を知っていただきたいですね。
典型的な更年期症状であるホットフラッシュと発汗異常。それに関係して出てくる睡眠障害にも効果的です。
基本的には、エストロゲンが減ることで起こる症状ならば、どれでも効きます。逆に、HRTをしても良くならない症状は、エストロゲンの減少が原因ではないことが分かります。つまり、HRTをすることで、その症状の原因が更年期であるのかが推察できるのです。イライラするから更年期だと思ったけれど違うとか、やっぱり更年期として捉えていいんだとかね。
効果が出はじめるのは、普通はエストロゲンの血中濃度が安定する2週間くらい経ってから。もっと早い方もいらっしゃいます。ホットフラッシュは、比較的はやく効果が出やすいですね。
骨粗しょう症にも有効です。エストロゲンが減ると、即座に骨が溶けはじめる。そういうものも防いでくれます。
乳がんについては、HRTを長期で行うと発症リスクがわずかに増えます。世界的には、HRTが原因とされる乳がんリスクは小さく、年間1000人に対し1人未満とされ、一般的なライフスタイルによるリスク(座りがちな生活習慣、肥満、アルコール摂取など)の増加と同じかそれよりも少ないとされています。タバコの肺がんリスクみたいなものとは全然違うので、勘違いしないでくださいね。
子宮筋腫は基本的にほとんど問題になりません。筋腫自体が大きくなって困ることは普通はないです。ただ、粘膜下筋腫の方は、出血が多くなる可能性があるので気をつけないといけません。
子宮内膜症はエストロゲン依存性の疾患ですので、エストロゲンの補充によって内膜症が再び現れたり、嚢胞が大きくなってしまうことがあります。相当重症な内膜症の場合は、悪性転換といって癌化することもあるので、治療をはじめる前に慎重に検査しておくことが必要です。ただ、HRTをできないということはありません。
黄体ホルモンの投与は、体を月経前の状態にするため、むくみは起こりやすくなります。しかし、HRTによって太るという心配はありません。
よく使われる薬との相互作用は、ほとんどありません。今は「天然型」といって、卵巣で作られるのとまったく同じエストロゲンを使っているため、月経があった時とほぼ同じ条件といえます。ただ、エストロゲンには血液を固める作用があるので、病気のために血液を溶かす薬剤を使用している方などは、通常使用できません。
まずは問診。これがすごく大事になります。問診ではその症状が更年期によるものか判断していくのがひとつ。あとは、その人の治療におけるリスクも分かります。乳がん検診を受けているかどうか、またその結果はどうだったかなども重要です。
問診が終わってから、事前検査。検査内容は、婦人科診察と血液検査が主なものです。患者さんの状態によっては、追加の検査にて確認が必要になる方もいますね。それから、患者さんに説明して治療を行っていきます。
金額はひとによって異なります。事前検査の数で差が出るため、初診のときには多少の負担がかかることもありますが、薬代はそんなにかかりません。
また、更年期症状に対する治療は、健康保険が適用されます。
通院の頻度は診る医師によって異なると思います。私の場合は最初の6カ月は3~4回来ていただきますが、以後安定していれば3カ月に1回くらいのペースです。
治療期間は患者さんによります。更年期症状が10年15年と長く続く方もいれば、全くない方もいるわけですから。エストロゲンがなくても問題がなくなるタイミングは、本当のところはまだ分かっていません。また、治療の目的が更年期障害だけなのか、骨粗鬆症の治療も兼ねているのかなどでも異なります。
更年期障害に対して長期のHRTが必要な場合、必然的に患者さんの年齢が上がってきます。心血管系疾患や乳がんのリスクが増えることがあるため、私の場合は投与量を半分に減らして安全性を高め継続するようにしています。そのために調子が悪くなる方はあまりいらっしゃいません。その後は継続するか、終了するか、終了後に他の治療法に変更する必要があるかなど、すべて患者さんごとに違ってきます。
あとは、HRTを受ける目的をどこに置くかも重要です。社会で活躍し働く女性が増えています。更年期障害になると、仕事のパフォーマンスが明らかに低下し悪影響を及ぼします。そんなとてもつらい経験をした方は、定年までHRTを続けるということも多いです。一方で、本人が止めたくなったらいつでもやめることができます。
日本女性医学学会のHPには、学会認定の医師が各都道府県別で紹介されています。参考にしていただければ幸いです。
【資格】医学博士
詳しい経歴や治療にかける想いはコチラ
飯田橋レディースクリニック院長東京女子医科大学産婦人科 非常勤講師
日本女性医学学会 幹事・評議員
HRTガイドライン2017年度改訂版作成小委員会 委員長
日本産婦人科医会 女性保健委員会 委員
日本更年期と加齢のヘルスケア学会 理事