驚かれる方が多いのですが、じつは「漢方」とは、日本独自の治療法です。
古代中国の伝統医学の理論が日本に伝来し、風土や気候、生活スタイルに合わせ、江戸時代に独自の発展を遂げてきました。漢方という名前は、江戸時代に入ってきたオランダ医学「蘭方」と区別するため、幕末の頃に名づけられたのが由来です。
どんな治療かというと、植物の花や根、果物、貝殻や鉱物、魚や動物など、天然の薬効をもった生薬を組合せることによって「漢方薬」ができあがり患者さんの状態に合わせて処方していく治療法です。
漢方治療は、中国伝統医学の頃より現在まで長年の臨床や経験則に基づき、なんと2000年以上も続いています。
漢方の特徴のひとつは「新陳代謝」にあります。 西洋医学では薬を用いてウイルスや細菌を攻撃しますが、漢方は様々な薬効で新陳代謝を促して身体が本来持っている自己治癒力を高めます。 後ほど詳しく解説しますが、処方や診断も特徴的です。頭痛には○○というように病名に対して処方されるのが西洋薬で、病気や不調の原因・その人の身体の状態に対して処方されるのが漢方薬です。
漢方では身体全体のバランスをとるように治療していきます。なんとなく調子が悪いけれど病院での検査で問題がなく、病気とみなされない「未病」と呼ばれる状態や、そのときにでる肩こり、慢性疲労、まめいなどの「
不定愁訴」も治療の対象です。
漢方の診察は、病気の本質を探ること―これを「証」を立てると言います。
証を立てるために、「四診」と呼ばれる4つの診察を行います。
ところで、インタビュアーさんの声は低く、わずかなかすれを感じます。風邪をひくとノドにくるタイプではないですか? (インタビュアーの声は特徴的ではないですが、ご指摘どおりで驚きました)
これは、患者さんが発する音を聞くあるいは体臭や汗、小便などの臭いを嗅ぐことも「聞診」という診療法に属します。他にも、顔色や姿勢、表情など全体を目で診る「望診」、脈やお腹に触れて診る「切診」、そしてお話をじっくり聞いて症状を確認する「問診」があります。
この4つの診察方法を四診と言います。
四診によって患者さんの病態を判断し、「三陰三陽」「虚・実」「気・血・水」の理論に当てはめて、証を立てていきます。
「三陰三陽」では、風邪など熱性病の発病から死に至るまでの過程を「陰」と「陽」に分けて考えます。熱を発することができる時期は「陽」、もう熱を発する力もない時期は「陰」。その中でそれぞれを三段階に分け、どの状態にあるかを判断します。
最後に、「気・血・水」の理論もあります。
漢方では、この3つの要素が過不足なくめぐっている状態を健康と言います。
以上の理論(モノサシ)を用い「証」を立てて、処方する漢方薬が決定します。同じ風邪でも証が違えば薬が変わる「オーダーメイド」のような処方がされます。
漢方薬は、複数の生薬の組み合わせです。
例えば風邪の初期に処方する「桂枝湯」という漢方薬は、桂枝、生姜、大棗、甘草、芍薬
といった5つの生薬の組み合わせ。桂枝と生姜には発汗作用があり、組み合わせることで効果が強くなり、そこへ止汗作用のある芍薬を入れることで、発汗作用が強くなりすぎないよう調整していきます。大棗と甘草は胃を補う作用があり、生姜が加わると、健胃強壮作用が増強されるのです。さらに、桂枝湯に発汗作用の高い葛根と麻黄という生薬を加えると、葛根湯という漢方薬に変わります。こちらは、汗が出ない風邪に適しています。
このように、お互いの長所を強めたり、効きすぎる部分や短所になる部分を補うような絶妙な配合、処方がおこなわれています。
桂枝湯の桂枝はシナモン、生姜はジンジャー、大棗はナツメ、甘草は天然の甘味料といった具合に、漢方では食材として馴染みのある素材も多く使われ、副作用が少ないことも優れています。
「効き目がやさしい」「ゆるやかに効く」そんなイメージを漢方薬に持たれているかたも多いかもしれませんが、漢方薬には即効性があるものや、驚きの効果を発揮するものが多く存在します。
たとえば麻黄湯という処方はインフルエンザの治療にも使われています。主薬である麻黄の成分はエフェドリンという薬の原料にもなっていて、エフェドリンだけを抽出して使用すると薬効が強すぎるというデメリットもあるくらいです。寒気をともなう風邪の初期に麻黄附子細辛湯 を温かく服用すると、小一時間で寒気がとれ風邪が治ります。
他には顔のニキビやフキデモノに、汚れた血を解毒(駆瘀血)する桂枝茯苓丸を服用すると生理があるたびに額→アゴ→頬の順にニキビが消えてゆきます。
子宮内膜症などの生理痛全般に温清飲を用いると、20〜30日で、生理痛が半減するなど高い効果をもつ漢方薬がたくさんあります。